第4章.0.5fsのチャンネル間位相差の補正

4.1 0.5fsのチャンネル間位相差とは?
 PCMプロセッサーの一般的の使用方法、すなわち、録音時にはアナログ入力を使用し再生時もアナログ出力を使用している場合には、この0.5fsのチャンネル間位相差は発生しません。しかしながら、録音時にはアナログ入力を使用し、再生時にディジタル出力、もしくは、ディジタルデータをPCに取り込み、PC等で再生した場合にLchとRch間には、0.5fsのチャンネル間位相差が発生する場合があります。この現象は、PCMプロセッサーでは1つのA/Dコンバータ、D/Aコンバータを時分割してLchとRchに使用していることが多いのに対して、近年のディジタルオーディオ機器では、LchとRchに2つのD/Aコンバータを使用していることが多いために発生します。
 したがって、Lch用とRch用に2つのA/Dコンバータ、D/Aコンバータを使用したPCMプロセッサーであれば理論的にこの問題は発生しません。市販されたPCMプロセッサーの全てについて調査したわけではありませんので確約はできませんが、当時の半導体価格を考慮すると、多くのPCMプロセッサーでは1つのA/Dコンバータ、D/Aコンバータを時分割してLchとRchに使用している可能が大きいと考えます。少なくとも私の使用しているPCM-501ESでは、1つのA/Dコンバータ、D/Aコンバータを時分割してLchとRchに使用しています。

4.2 補正を行うべきか否か
 既に録音時に0.5fsのチャンネル間位相差が発生しているのにどのようにして補正を行うのか?疑問に思う方もいらしゃるかもしれません。これは、PCにディジタルデータとして取り込んだwavファイルにソフトウェア上で処理を行うことで補正することが可能です。しかしながら、オリジナルのデータに何らかの処理を行うわけですから、チャンネル間位相以外の部分で特性が変化します。(具体例は、下記の4.3項を参照)
 次に、この0.5fsのチャンネル間位相差の重要度について考察してみます。初期のCDプレーヤー等では、1つのD/Aコンバータを時分割してLchとRchに使用してる製品がありました。つまり、0.5fsのチャンネル間位相差が発生していたわけです。これらの事例を考慮すれば、この0.5fsのチャンネル間位相差は許容できる範囲とも言えます。
 ここからは好みの問題になってしまうのですが、私は位相以外の特性が多少変化したとしてもチャンネル間の位相差を合わせておきたいと考えるので補正を行うことにしました。もちろん、この件は各人の好みで判断していただければと思います。

4.3 補正方法
 まず、この0.5fsのチャンネル間位相差の補正が可能な音声処理ソフトがあるかどうかを調べてみました。ある掲示板で、CoolEditというソフトウェアで2倍にオーバーサンプリングしたのちに1サンブル位相をづらし、サブサンプリングすれば可能との情報を頂きました。以前はこのCoolEditの評価版が提供されていたようなのですが現在は評価版が見当たらないこと、2段階の処理を行うこと、WAVEファイルは構造がシンプル等の理由から、自分で補正TOOLを作成することにしました。
 補正TOOLの開発言語にはVBを使用し、補正処理はFIRフィルターで構成することにしました。単純にチャンネル間の位相差を補正するだけであれば、Lch、もしくはRchにのみに0.5fsの位相処理を行うことでも補正は可能です。0.5fsの位相処理の一例として、TAP数:8(片側)、係数ビット:10bit、窓関数:BLACKMANの条件で周波数特性、位相特性をシュミレーションした結果を下記に示します。やや専門的になりますが、0.5fsの位相処理では係数が対称になるため、位相特性は高域まで平坦にすることが可能です。しかしながら、周波数特性の高域部分に影響が出いていることが確認できます。もちろん、もう片方のチャンネルに位相はそのままで0.5fsの位相処理と近似した周波数特性にする処理を行うことも不可能ではありません。しかし、高域での周波数特性の減衰そのものは避けられません。
0.5fsの位相処理時の周波数特性
0.5fsの位相処理時の周波数特性

0.5fsの位相処理時の位相特性
0.5fsの位相処理時の位相特性

 そこで、片方のチャンネルに0.25fs、もう片方のチャンネルに0.75fsの位相処理を行うことで、チャンネル間での位相差を合わせる手法を用います。また専門的になりますが、0.25fsの位相補正と0.75fsの位相補正では、周波数特性を全く同一にすることが可能です。上記と同じ、TAP数:8(片側)、係数ビット:10bit、窓関数:BLACKMANの条件で0.25fsの位相処理を行った場合のシュミレーションした結果を下記に示します。周波数特性は高域部分への影響が軽減されていることが確認できます。しかしながら、0.25fs(0.75fs)の位相処理では係数が対称ではないため、高域部分で位相の乱れが発生します。
 0.5fsの位相処理時の高域の減衰にはちょっと抵抗があります。そこで、高域部分での位相乱れには目をつむり、この条件で補正TOOLを作成することにしました。
0.25fsの位相処理時の周波数特性
0.25fsの位相処理時の周波数特性

0.25fsの位相処理時の位相特性
0.25fsの位相処理時の位相特性

4.4 補正結果
 作成した補正TOOLでの検証結果です。チャンネル間位相の検証には、efuさん作成のWaveSpectraのリサージュ波形を使用しました。まず、補正前の1kHz,10kHz,15kHz,20kHzの各周波数でのリサージュ波形を下記に示します。周波数が高くなるにつれてチャンネル間の位相づれが顕著になってくる様子がわかります。
補正前の1kHz位相 補正前の10kHz位相 補正前の15kHz位相 補正前の20kHz位相
1kHz位相 10kHz位相 15kHz位相 20kHz位相

 次に、補正後の1kHz,10kHz,15kHz,20kHzの各周波数でのリサージュ波形を下記に示します。15kHzまではチャンネル間の位相差が補正されていることが確認できます。また、20kHzではシュミレーションどおり位相差は完全には補正されてはいませんが、補正前よりは位相差が少なくなっていることがわかります。
補正後の1kHz位相 補正後の10kHz位相 補正後の15kHz位相 補正後の20kHz位相
1kHz位相 10kHz位相 15kHz位相 20kHz位相



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